近年、デジタル技術の進化により、医療分野でもデータの利活用が求められるようになっています。特に、日本は世界的に見ても少子高齢化が進んでおり、医療資源の最適化や診療の質向上が急務です。こうした背景のもと、日本の医療分野のデジタル化を推進する取り組みで、医療の効率化と情報共有の改善を目指す「医療DX令和ビジョン2030」が、2022年5月に、自由民主党政務調査会より提言されました。本記事では、その背景や目的、具体的な施策について解説します。
背景
日本は世界に先駆けて少子高齢化が進んでおり、国民の健康増進や、切れ目のない質の高い医療提供のために、医療分野のデジタル化が求められています。特に、新型コロナウイルス感染症の流行を通じて、以下の課題が浮き彫りとなりました。
・平時からの迅速なデータ収集の重要性
・収集範囲の拡大によるより精度の高い医療データの活用
・医療のデジタル化による業務効率化
・データ共有による医療の「見える化」
これらの課題を解決し、次なる感染症危機に迅速に対応できる体制を構築することが急務とされています。
目的
「医療DX令和ビジョン2030」では、国民が自身の保健・医療情報(介護含む)へ容易にアクセスできるようにし、それを健康維持・増進に活用することで、健康寿命の延伸を目指します。また、医療のデジタル化を進め、診療の質向上や業務効率化を図ることで、最適な治療の提供を推進します。加えて、既存の医療情報システムを強化し、感染症流行時にも迅速に情報を取得できる体制を整備。医療データの適切な利活用により、創薬や治療法開発を加速させ、医療産業の発展にもつなげます。
施策
「医療DX令和ビジョン2030」では、以下の3つの柱が掲げられています。
1.全国医療情報プラットフォームの構築
全国規模で医療情報を統合し、迅速かつ適切に活用できるプラットフォームを整備します。これにより、患者様の診療履歴や検査結果を一元管理し、医療機関間での情報共有を円滑に進めることが可能となります。また、リアルタイムでのデータ収集を強化し、感染症対策や医療提供体制の最適化を図ります。
2.電子カルテ情報の標準化と標準型電子カルテの検討
現在、日本の医療機関では異なる電子カルテシステムが使用されており、病院間での情報共有が困難な状況です。この問題を解決するため、電子カルテ情報の標準化を進め、異なる医療機関でもデータがスムーズに共有できるようにします。さらに、標準型電子カルテの導入を検討し、システム開発や運用コストの削減を目指します。
3.診療報酬改定DX
診療報酬の改定は医療機関の経営に大きな影響を及ぼすため、そのプロセスをデジタル化し、透明性と効率性を向上させます。具体的には、AIやビッグデータを活用して診療報酬の適正な設定を行い、医療サービスの質の向上とコスト削減を両立させる仕組みを構築します。また、保険請求の電子化を進め、事務作業の負担軽減を図ることで、医療従事者がより本来の診療業務に専念できる環境を整えます。
まとめ
「医療DX令和ビジョン2030」は、デジタル技術を活用して、国民の健康増進と医療の質向上を図る国家的な取り組みです。次なる感染症危機への備えだけでなく、医療の効率化や産業振興にも寄与するこのビジョンの実現に向け、関係各所の連携が求められます。